
自然の恵み豊かな富山県氷見市にあり、絶景・温泉・美食がそろう「ひみ栄和温泉元湯 民宿 叶(かのう)」。先祖から受け継いだ土蔵をリノベーションした一棟貸の客室は、源泉かけ流しの温泉付き。プライベートな空間で目の前に広がる景色を眺めながら、季節ごとの山海の幸を味わえます。
料理をより引き立てる、伝統工芸の技で作り上げた「錫(すず)」の器にも注目しながら、極上のくつろぎ時間を堪能した1泊2日の滞在をお届けします。
目次
- ・アクセス
- ・客室
- ・夕食
- ・朝食、チェックアウト
- ・高岡鋳物の工場見学
アクセス
富山湾を望む純和風の宿

富山県の北西部、能登半島の付け根に位置する氷見市。春はホタルイカや白エビ、秋・冬は紅ズワイガニガニなど、1年を通じてさまざまな海の幸をもたらす富山湾に面し、特に冬の「ひみ寒ぶり」を求めて多くの人が訪れます。そんな富山湾の目の前にたたずむ老舗宿が、「ひみ栄和温泉元湯 民宿 叶」。晴れた日には富山湾越しに立山連峰も望むことができ、その絶景にも心を動かされます。
「民宿 叶」に公共交通機関を利用してアクセスする場合、まずJR新高岡駅から城端線でJR高岡駅へ。そこから加越能バス「灘浦海岸・脇行」に乗って「ひみ阿尾の浦温泉」で下車したら、徒歩約3分で到着します。車であれば、能越自動車道の氷見北ICより約3分です。

入口を入った所には生け花が飾られ、温かいおもてなしの心を感じます。どことなく懐かしい空気が漂い、思わず「ただいま」と言いたくなりました。
客室
土蔵をリノベーション。特別室「とうべぇ蔵」

今回体験したのは、本館に隣接する一棟貸の特別室で過ごしながら、富山の旬の食材を伝統工芸の器で堪能できる【錫旅】プラン。特別室は2022年に誕生した「とうべぇ蔵」で、江戸後期から明治初期頃に建てられた土蔵をリノベーションし、扉の先には自分たちだけのプライベートな空間が広がります。
大人の隠れ家と呼ぶにふさわしい「とうべぇ蔵」は、初代当主の名前にちなんで付けられました。

広々とした宿泊者専用のカフェラウンジがあり、夕食・朝食ともにこちらでいただけます。人目を気にせずゆったり過ごせるので、女子旅や家族旅行、カップルの記念日旅行など、さまざまなシーンにおすすめです。

ラウンジの窓から見える穏やかな富山湾。タイミングによっては、漁船が出港する様子を見ることもできます。

重厚な扉や太く立派な梁をはじめ、土蔵の面影を残した内装に歴史を感じます。

扉を開けて室内に入ると、リビングには畳の小上がりが。優しい木の香りと相まって居心地のいい空間です。


「とうべぇ蔵」はメゾネットタイプで、寝室は2階にあります。最大5名まで宿泊することができ、1階に寝具を用意してもらうことも可能です。急な階段も昔からあったもの。就寝する際は安全のため、網戸を引いておきましょう。

お着きのお茶は、富山・高岡の伝統工芸である高岡鋳物の錫の器で提供。夏は自家製の梅ドリンクになることもあるそうです。お茶菓子の「焼ちんみ」は氷見の名物で、しっとり柔らかな食感がたまりません。

リビングの奥にはテラスがありました。海からの風を感じながらのんびり語らうのも、こちらに宿泊する醍醐味です。


女性の宿泊客にはクレンジング、洗顔、化粧水、乳液が入ったスキンケアセットが用意されます。「ReFa(リファ)」のドライヤーもうれしいですね。
お部屋に用意されているのは、旅情をかきたてる浴衣。女性用の浴衣には、富山県に生息する特別天然記念物のライチョウが描かれていました。

早速「とうべぇ蔵」の目玉の一つ、客室に備え付けられた源泉かけ流しの温泉へ。自家源泉からとうとうと湧き出る温泉水を、そのまま使用しています。
主成分は塩化ナトリウムで、少ししょっぱいのが特徴。神経痛や関節痛に効果があるとされ、体の芯まで温まるので冷え性の人にもぴったりです。肌がつるつるになる「美人の湯」としても知られています。
夕食
豊かな食文化×伝統工芸。五感で楽しむ富山の魅力

ゆっくり温泉に浸かった後は、お待ちかね夕食の時間。【錫旅】プランでいただく食事は「錫が奏でる富山会席」です。富山県高岡市の鋳物メーカー「能作」とタイアップしたコース会席で、地元の食材を使った極上グルメの数々をスタイリッシュな錫の器に盛り付けて提供します。
【錫旅】プランは、氷見の思い出をより濃厚なものにしてほしいとの想いから考案。食や絶景だけでなく、能作の工場見学や鋳物製作体験など、ほかにはない貴重な体験ができることもアピールしています。

コースの第一部は「海の恵み」と題し、富山が誇る海の幸をふんだんに使用した料理が登場。一品目は、お寿司やホタルイカの沖漬け、サザエに季節の甘味などを盛り付けた、なんともぜいたくな前菜です。
使用している器はアフタヌーンティーセットとして販売されていて、スイーツやサンドイッチなどをのせることを想定したもの。この器でコースの前菜を提供するというアイデアが斬新!

二品目の「舟盛」は、氷見漁港でその日に獲れた旬の魚を豪快に盛り付けています。この日はヒラメ、イカ、サヨリ、サワラの炙りなどを味わえました。
女将さんが目利きした鮮魚は食感がよく、旨みも抜群。調理も女将さんが担当していて、最高の食材を最適な調理方法で提供しています。

続いて「季節の一品」。この日は、富山湾で獲れた紅ズワイガニガニやイカを使った酢の物でした。

氷見沿岸でとれる海藻「ながらも(アカモク)」を麺に練り込んだ「氷見ながら藻うどん」。


せっかくなので、料理と相性抜群な富山の日本酒もオーダー(別途有料)。錫のぐい呑みは、口当たりをまろやかにしてくれます。

第二部は、題して「大地の恵み」。富山の大地が育んだ食材を存分に堪能できます。メインはサシの入り具合が絶妙な「氷見産牛ヒレステーキ」。氷見牛は脂の上品な旨みと驚くほどの柔らかさを楽しめます。お花畑をイメージしたミニトマトのあしらいにも、心がくすぐられますね。

山菜をはじめ、旬の食材を使用した「天婦羅盛り合わせ」。初めて食べたホタルイカの天ぷらは、サクトロの食感がたまりません。
天ぷらの器として使用されている能作の製品「KAGO」は、柔らかな錫の特性を存分に生かし、形を自由自在に変えられる優れもの。能作を代表するアイテムの一つです。


どのメニューも本当においしくて一口ごとに感動しましたが、ツヤツヤと光り輝く最高級の氷見産コシヒカリには、特に心を奪われました。ほおばると口いっぱいに甘みが広がり、思わずうなってしまうほどのおいしさ。また、米麹味噌を使った味噌汁は、氷見の伝統的な漁師料理をイメージした魚介入り。米麹の優しい風味と、魚介から出るだしが相まって絶品です。
デザートのジェラートを含め、食もさることながら、錫の器に興味を引かれる夕食となりました。
朝食、チェックアウト
温泉と和朝食から始まる最高の朝

ぐっすり眠って目覚めた翌朝は、朝食の前に温泉へ。宿泊中はいつでも何度でも入ることができ、優雅な時間を満喫できました。浴槽から眺める富山湾も最高です。

朝食も夕食同様にカフェラウンジで。ノドグロの干物、クロダイの昆布締め、かまぼこなど地元の美味がたっぷりで、炊き立ての氷見産コシヒカリも最高でした。
昨晩おいしさに感動したお味噌汁を、熱々でいただけるのもうれしいポイント。ここでもさりげなく錫の器が使われていて、目を喜ばせてくれます。

朝食の後は、宿の前の桟橋をのんびり散歩。絶景と温泉、そして美食を堪能し、心の底から癒やされました。
名残惜しくも「民宿 叶」をチェックアウトしましたが、昨晩の夕食で触れた錫の器の美しさが忘れられず、高岡市にある能作の本社工場を訪れてみることに。事前に予約をしておくと、工場見学のほか鋳物製作体験にも参加できます。

工場へ向かう途中、「道の駅 氷見 氷見漁港場外市場 ひみ番屋街」に寄り道。海鮮や地酒、お菓子などさまざまな特産品が並び、お土産探しに最適です。

こちらに来たらぜひ立ち寄りたいのが、無料で利用できる足湯。小高い丘の上にあり、天気がいい日はじっくり足を温めながら、立山連峰を眺めることができます。
道の駅 氷見 氷見漁港場外市場 ひみ番屋街
- 住所
- 富山県氷見市北大町25-5
- 営業時間
- 8:30~18:00
※店舗により営業時間が異なる - 休館日
- 1月1日
- 公式サイト
- 氷見漁港場外市場 ひみ番屋街
高岡鋳物の工場見学
錫製品の製作体験も


鋳物の一大産地として400年以上の歴史を誇る富山県高岡市。この地で鋳物メーカーとして誕生した能作は、伝統を守りつつ現代のライフスタイルに合ったものづくりを行っています。
本社工場の中へ入ると、まず目に飛び込んでくるのが壁一面にずらりと並ぶ木型です。その数は約2,500種類と圧巻! これはただのディスプレイではなく、実際に製品を作る際に職人が使っているそう。


予約していた時間になったら、工場見学に出発です。能作の歴史や作業の工程などガイドさんの案内を聞きながら、職人たちが一つひとつ手作業で仕上げる様子を間近で見ることができます。

ろくろで削る音、金属の匂いなど臨場感たっぷり! 1,000度以上の高温で溶かし、液体状になった金属を型に流し込む迫力満点な光景も見ることができました。職人たちの真剣な様子にちょっと緊張します。

工場見学で鋳物づくりの工程を学んだ後は、錫製品の製作体験へ。今回は小学生も体験できる30分コースで、箸置き作りに挑戦。デザインは12種類の縁起のいい動物、または桜のモチーフから選ぶことができ、金運と幸運を招くネコを作ることにしました。


まずは「鋳型」づくりから。土台となる枠の中に原型を置き、上から砂をかけて押し固めます。教えてくれるのは、産業観光課のスタッフさんです。


高温で溶けた錫をスタッフが鋳型に流し込み、ほんの数分待てば完成。ゆっくり丁寧に指導してくれるので、問題なく完成させることができました。できたての錫の優しい輝きと手触りは特別感があり、思わずうっとりしてしまいます。

館内にあるショップではお土産も購入可能。「民宿 叶」の夕食でも使われていた「KAGO」シリーズやぐい呑みなどのほか、花器やアクセサリー、職人とおそろいのTシャツまで、幅広いアイテムに目移りします。

熱伝導率が高く、冷たい水を注ぐとキンキンに冷えるのも錫の特徴。錫は、水やお酒の味をまろやかにしてくれると言われているそうです。館内に置かれたウォーターサーバーで、ぜひその冷たさや飲み心地を体験してみてください。
能作 本社工場
- 住所
- 富山県高岡市オフィスパーク8-1
- 時間
- 10:00~18:00(カフェのL.O.は17:30)
[工場見学]11:00、13:00、14:00、15:00、16:00 ※日曜・祝日・年末年始は休業、土曜日不定休
[鋳物製作体験]30分コース/13:00~、15:00~ 90分コース/10:30〜、13:30〜、15:30〜 - 料金
- [工場見学]無料
[鋳物製作体験]30分コース1,100円(小学生550円)、90分コース3,850円~(2025年6月3日~※アイテムにより価格は異なる) - 公式サイト
- 株式会社 能作

土蔵をリノベーションした特別なお部屋で、海と山の幸をふんだんに使った料理と源泉かけ流しの温泉を満喫。伝統工芸の錫にもさらに興味がわき、富山を堪能し尽くす旅になりました。豊かな自然や先人の想いを、人々が長きに渡り守り継いできたことにも気づかされます。
訪れた人を温かな気持ちにさせてくれるこの場所に、また戻ってきたい。心からそう思える1泊2日でした。大切な人とかけがえのない時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
ひみ栄和温泉元湯 民宿 叶
- 住所
- 富山県氷見市阿尾2810
- アクセス
- 【電車・バス】JR「高岡」駅よりバス「ひみ阿尾の浦温泉」下車、徒歩約3分
【車】能越自動車道「氷見北」ICより約3分 - チェックイン
- 一棟貸「とうべぇ蔵」/15:30、本館/16:00
- チェックアウト
- 一棟貸「とうべぇ蔵」/10:00、本館/9:30
- 客室数
- 6室
- 駐車場
- あり/20台(無料※予約不要)
撮影/大林博之 取材・文/石川知京