
「ニューヨーク・タイムズ紙」が発表した「2023年に行くべき52カ所」に「絶滅の危機に瀕した屋台が並ぶ日本に残る数少ない場所」として選ばれた福岡市。実は福岡市は全国で唯一「屋台基本条例」を定めた、100店舗以上の屋台が軒を連ねるエリアです。
屋台といえばラーメンや焼鳥のイメージがありますが、時代と共に進化を続け、今では多国籍料理やバー、フレンチ、中華、明太子専門店、コーヒースタンドなど個性豊かな店舗もたくさん。今回は福岡市の中でも多くの屋台が立ち並ぶ、天神周辺のおすすめの屋台をご紹介します。
まずは、屋台の選び方や支払い方法、入店後のマナーなど屋台に関する豆知識をチェック!次の福岡旅行では、屋台グルメを体験してみましょう。
福岡屋台とは?その歴史やエリアについて

福岡のいたるところで見られる、屋台。その歴史は戦後の昭和20年代初頭から始まったといわれています。ラーメンや焼鳥などを提供する屋台が軒を連ねるようになり、地元の人々や観光客に親しまれるようになります。その後、福岡の風物詩として定着し、現在に至るまで多くの人々に愛され続ける文化になりました。
時代と共に消滅していく屋台が増える中で、福岡市は屋台文化を守るべく2013年に「福岡市屋台基本条例」を施行。屋台の公募も行われ、新しい風を呼び込んでいます。

福岡市内には、大きく分けて3つの屋台街があります。
渡辺通りを中心に天神北から天神南にかけて広がる「天神屋台街」は、屋台数が最も多いエリア。長浜ラーメン発祥の地である「長浜屋台街」は、地下鉄「赤坂駅」から徒歩約10分のところに広がっています。
テレビなどでよく取り扱われるのは、那珂川沿いにある屋台群を中心とする「中洲屋台街」。この一帯の屋台が並ぶ風景は福岡を代表する景観です。
中でも「中洲川端駅」から徒歩5分、駅北側にある新旧10軒が立ち並ぶディープスポットの「裏中洲」は特に注目を集めています。
詳細は「福岡博多屋台マップ」(福岡市観光情報サイト「YOKA NAVI」より)にて確認してください。
屋台に行く前に知っておきたい、屋台の豆知識Q&A

Q1:トイレはありますか?
A:屋台の中にはトイレはないため、立ち寄る前に済ませておきましょう。
もし屋台に入ってから行きたくなった場合は、店主に声をかけると近くのトイレを教えてくれるので安心してくださいね。
Q2:支払いはキャッシュレスでもOK?
A:クレジットカードやQR決済を導入している屋台も増えていますが、使用できない屋台もあるため、現金を持参しておくことをおすすめします。
Q3:入店後に気を付けることは?
屋台は席数が限られているため、手荷物は膝の上や足元に置いて席を詰めて座りましょう。混んできたら長居せずに、食事が終わればサッと席を立つのがマナーです。

Q4:冬の夜は寒くないのですか?
A:福岡のほとんどの屋台が冬は風よけ対策としてビニールシートや建具で覆っているため、屋台内では意外と暖かく過ごせます。しかし、あくまで路上に設けられている屋台のため、羽織ものなど自分で調整できるアウターを持っていくと安心です。
Q5:一人だと入りづらくないの?
A:屋台は一人で行く人も多いので、一人ならではの醍醐味を存分に満喫しましょう。
中が盛り上がっていると声をかけづらいかもしれませんが、「一人ですが、空いていますか?」とひと言店主に声をかけてみてください。店主が気を利かせてくれたり、お客さん同士で席を詰め合ってくれたりと、その場にいる人たちとちょっとした交流ができるのも屋台ならでは楽しみです。
Q6:屋台の決め方は?
A:福岡にはいろいろなジャンルの料理を提供する屋台があるので、せっかくなら何軒かハシゴして気になるところに立ち寄ってみましょう。食事系の屋台を2軒行った後に屋台のバーでお酒を飲むなど、思い思いの時間を過ごしてみてください。

Q7:料理の選び方は?
A:屋台では必ずメニューと料金が明記されているので、入店後に確認でもOK。中にいる人と距離が近く、コミュニケーションがとりやすい雰囲気なので、店主や隣の席の人にイチオシのメニューを尋ねてみるのも良いですね。

Q8:予約はできますか?
A:来た順から席に案内する屋台がほとんどです。最近では予約可能な屋台もあるので、事前にSNSなどで調べておきましょう。
Q9:子連れの利用でも大丈夫?
A:ほとんどの屋台が子連れ利用可能です。列に並ぶのが不安な場合は、開店直後に行くと比較的待たずに入店できる可能性が高いですよ。
Q10:年末年始は営業していますか?
A:普段より数は減りますが、営業している屋台もあります。事前にSNSやWebで確認しておきましょう。
福岡屋台おすすめ5選
福岡の移動式屋台は1946年から続いており長い歴史を持っていますが、2017年以降は屋台業界に新たな店舗が参入し、従来のタイプとは違う新スタイルの「ネオ屋台」が次々に登場しています。
新旧の屋台をハシゴしたり、ラーメンや焼鳥などジャンルを一つに絞って食べ比べしたり、気に入った一つの屋台をとことん満喫したりと、自分なりのスタイルで満喫しましょう。
多国籍料理を屋台で楽しむ!「telas&mico 屋台」

多国籍料理「telas&mico(テラスとミコー)屋台」は、福岡市中央区春吉エリアにある本店「telas&mico」の姉妹店。形態は屋台ですが、本店と同じクオリティーの料理をいただくことができます。

ブルーが目を引く印象的な店構えは、2022年にグッドデザイン賞を受賞しました。このカラーは店主の久保田さんがこだわって選んだもので、自身が7年間過ごしたイギリスで当時住んでいた家のキッチンと同じ色を再現しているそうです。

イギリス生活では10数店舗のレストランで研鑽を積んだ久保田さんは、本店ではなく屋台に立ち続けることにこだわっており、自身が得たさまざまな国の料理技術と創作性をこの場所で提供してくれます。
イチオシは福岡県糸島産のブランド豚「糸島豚」を店主自らがソーセージに加工した「ソーセージグリル」(ソーセージ:1ピース 800円、2ピース 1,000円)。ひと口頬張ったときのソーセージの歯ごたえが絶妙な、脂身の甘みや旨みが詰まった逸品です。

焼き野菜と一緒に添えられているマッシュポテトは、修業先だったイギリスのレストランで人気のメニューを当時のレシピをそのままに再現したもの。じゃがいもの素朴な味を存分に引き出しながらもしっかりとコクがあります。


「自家製明太バター ブルスケッタ」(550円)は、明太子の香りと旨みを損なわないよう、絶妙な加減で焼き上げた一皿。外はカリッとしていますが中はやわらかく、口の中でジュワ~っと広がる明太子は絶品です。

また、「telas&mico屋台」では、デザートメニューも用意されています。デザート目当てにカフェとして利用する人も多いのだとか。
「手作りカヌレ」(400円)と「手作りバスクチーズケーキ」(550円)は、イギリスの人気レストランの味を再現した絶品メニューです。ハンドドリップコーヒーやワインともよく合います。

屋台の向かって左側はスタンディングコーナーになっており、ここではクラフトビールなどの立ち飲みも可能。レストランやカフェとしてゆったり過ごしたり、サクッと立ち飲みとして利用したりとそのときの気分によって使い分けられます。
telas&mico(テラスとミコー)屋台
- 出店場所
- 福岡県福岡市中央区渡辺通4-9 Laz福岡天神前
- 営業時間
- 18:45~24:00
- 定休日
- 日曜・月曜 他、不定休あり(公式サイトとSNSで告知)
- アクセス
- 西鉄電車「福岡(天神)」駅・福岡市営地下鉄「天神南」駅より徒歩約1分、「天神」駅より徒歩約5分
- 公式サイト
- telas&mico(テラスとミコー)屋台
屋台でフレンチに舌鼓 「レミさんち」

フランス人のレミ・グルナールさんが、2017年に開業した屋台「レミさんち」。日本各地を観光する中で福岡の屋台に出合ったレミさんが、屋台ならではのお客さん同士の距離感にシンパシーを感じて開いたお店です。また、フランスの飲食店は屋外で調理して提供することはないため、物珍しさも相まってより魅力的に見えたのだとか。

実は福岡で外国人が屋台を経営するのは、レミさんが初めて。福岡の屋台は長い間「原則一代限り」の規定がありましたが2016年に新規参入を可能にする公募が制度化され、その試験に合格したレミさんは唯一の外国人経営者として参入が認められたのです。

以来、自身の出身地であるノルマンディーの名物「ムール貝のワイン蒸し」(750円)や「ぷりぷりエビのアヒージョ」(750円)、「鶏もものコンフィ」(850円)など、フレンチのメニューを屋台でふるまっています。

中でもイチオシは「絶品!エスカルゴ」(850円)。日本ではまだ馴染みの薄いエスカルゴを、カジュアルに食べて欲しいという想いから生まれたメニューです。バター、フレッシュなにんにくとパセリが使われた食欲をそそるソースの香りに、料理の登場を心待ちにしているお客さんの表情も華やぎます。

弾力があるエスカルゴの旨みとソースが絶妙に絡み合い、クセになるおいしさです。

日によって具材が異なる「本日のキッシュ」(550円)も人気のメニュー。取材時の具材は、かぼちゃ、さつまいも、じゃがいもなど5~6種類の野菜でした。注文が入る度にあたためて提供してくれるので、サクッとした生地とやわらかな卵のフィリングの異なる食感が味わえます。

「福岡の屋台ならではの一期一会が大好きです」と話すレミさん。自分が好きになった福岡をみんなにも好きになって欲しいと、観光でお店に訪れた人に福岡の街を案内することもあるなど、屋台を通して出会う人と人とのつながりをとても大切にしています。グローバルな目線から見た福岡の良さやおすすめスポットを教えてもらい、そこから福岡観光の計画を立てるのも面白そうです。
レミさんち
- 出店場所
- 福岡県福岡市中央区渡辺通4-9 Laz福岡天神前
- 営業時間
- 18:00~24:00
- 定休日
- 日曜・月曜 他、不定休あり(公式サイトとSNSで告知)
- アクセス
- 西鉄電車「福岡(天神)」駅・福岡市営地下鉄「天神南」駅より徒歩約1分、「天神」駅より徒歩約5分
「ともちゃん」で黒毛和牛と長浜ラーメンを食す

30年近く福岡の夜の街を照らし続けている「ともちゃん」。肉や魚、おでん、ラーメンなどバラエティ豊かなメニューを取りそろえた屋台です。


焼鳥やおでんなどどの料理も絶品ですが、中でも黒毛和牛を使ったメニューとラーメンが人気です。屋台を開業する前は精肉店だった「ともちゃん」は、当時培った人脈で今も上質なお肉を安価で仕入れることができるそう。
「和牛サガリ」(1,300円~)や「黒毛和牛タン」(1,400円~)、「黒毛和牛カルビ」(1,400円~)、「黒毛和牛イチボ」(1,800円~)など、鮮度の高い牛肉を炭火焼きでいただくことができます。

千切りキャベツが添えられている「黒毛和牛サガリ」(1,300円~)。福岡の焼鳥屋では定番の「酢タレ」がかかっていて、噛む度に口の中で肉汁とさっぱりとしたタレの味が広がります。


大きくて肉厚な焼鳥は、福岡の焼鳥の定番「バラ」(230円)をはじめ、「ぼんじり」(230円)、「砂ズリ」(170円)など、どれもボリュームがあって食べ応え十分!

〆にぴったりの「ラーメン」(750円)は、黄金色の脂が輝くスープととんこつの旨みを堪能できる一杯です。あっさりしていてコクがあるスープは、ネギやショウガなどそれぞれ合わせる具材によって味が変化していきます。
博多ラーメンというと細麺のイメージがありますが、この細さは時代によって変化しているのだとか。
そんな中でも「ともちゃん」では、昔ならではの博多ラーメンの太さにこだわっています。地元や観光客から長く愛され続けているこだわりのラーメンをぜひ味わってみてください。
ともちゃん
- 出店場所
- 福岡県福岡市中央区天神1-14-16
- 営業時間
- 火~土18:15~26:00/日・祝18:15~25:30
- 定休日
- 月曜 (連休の場合は営業、翌日休。SNSで告知)
- アクセス
- 福岡市営地下鉄「天神」駅・西鉄電車「福岡(天神)」駅より徒歩約10分
予約OK! SNSで人気のもちもち餃子など昭和42年開業の老舗「喜柳」

3歳の頃から屋台に通う生粋の博多っ子・迎さんが切り盛りする「喜柳」は、グルメはもちろんお客さん同士の交流を楽しむのにもぴったりです。

迎さんは来店した一人ひとりとお酒を酌み交わしながらしっかり話を振ってくれるので、自然とその日その場に居合わせたお客さんたちの間に一体感がつくられていきます。取材時も初めて屋台に来たという一人客が訪れていましたが、迎さんがさりげなく声をかけることで緊張感がほぐれ、いつのまにかお客さん同士で仲良くなっていました。
なんと、この店で知り合った20組のカップルが結婚し、迎さんはそのうちの19組の結婚式に招待されてお祝いのスピーチを担当したのだとか。自身とだけでなくお客さん同士の縁も大切にしていることが伝わるエピソードですね。

迎さんの明るい人柄は、提供される料理にも表れています。「もちもち餃子」(700円)は、太宰府市の名物である梅ヶ枝餅の皮が使われた人気メニュー。梅ヶ枝餅用の焼型を使用して作られており、名前の通りもちもちとした食感が楽しめる新感覚の餃子です。その珍しさからSNSでも話題を呼んでいます。

明太子の鮮やかな色が目を引く「辛子めんこん」(650円)は、熊本の名物「からし蓮根」と組み合わせた一皿。マンガ『クッキングパパ』の作者・うえやまとしさんが迎さんに声をかけ、メニューに加わった思い入れのあるメニューで、サクッとした衣とレンコンの心地良い歯ごたえ、穴に詰まった明太子の風味を一度に味わえます。

福岡の屋台の〆といえばラーメンが定番ですが、福岡屋台発祥といわれている「焼きラーメン」も欠かせません。
「喜柳」の焼きラーメンは、通常のラーメンの1.4倍の太さの麺が使われています。鉄板で焼くことで麺の中にスープの味を閉じ込めるため、少し太めがベストなのだとか。

目玉焼きが載った「焼きラーメン とんこつ」(850円)は、見た目は焼きそばのようなのに、とんこつの風味も楽しめる屋台ならではの一品です。焼きラーメンには「とんこつ」の他に「オリジナル」もあり、オリジナルはナポリタン、ジェノベーゼ、味噌、塩と季節によって味が変わるそう。季節感も大切にした「喜柳」ならではのメニューです。
喜柳
- 出店場所
- 福岡県福岡市中央区天神1-4-1 福岡天神 大丸前
- 営業時間
- 18:00~O.S.26:00
- 定休日
- 不定休
- アクセス
- 西鉄電車「福岡(天神)」駅・福岡市営地下鉄「天神南」駅より徒歩約1分、「天神」駅より徒歩約5分
食後の〆は一杯仕立てのコーヒーを。「珈琲と蒸溜酒 megane coffee & spirits」

2024年10月に5周年を迎えた「珈琲と蒸溜酒 megane coffee & spirits(メガネコーヒー&スピリッツ)」は、福岡初のコーヒー屋台。つい写真に収めたくなるようなスタイリッシュな外観と、この屋台のためにつくられた背の高いスツールなどの美しいデザイン性が評価され、2021年度にグッドデザイン賞を受賞した「ネオ屋台」です。取材日も道行く人たちが次々と屋台を外から撮影していました。

ここで提供されるのは、こだわりのコーヒーと蒸留酒のみ。

コーヒー(メガネブレンド 600円)は、注文が入る度にハンドドリップで一杯ずつ丁寧に抽出してもらえます。※カウンターチャージ 300円

豆は、福岡の名店「ロースターズコーヒー 焙煎屋」で扱う5つの産地のシングルオリジンをローストしてブレンド。「珈琲と蒸溜酒 megane coffee & spirits」のためのオリジナルブレンドを使用います。
春から秋にかけては、夜風を感じつつ穏やかな時間を過ごしたり、冬には透明なフィルムで覆われた温かな室内でコーヒーのぬくもりを感じたりと、季節問わず締めの一杯を楽しむことができます。まさに、コーヒー愛好者にとって理想的な空間。

お酒を飲みたい人には、コーヒーを使ったアルコールドリンクがおすすめ。「コーヒーチューハイ」(800円)は、お店で使用している豆を焼酎に漬け込んで作ったオリジナルのリキュールです。口当たりはやわらかくスッキリとした味わいで、コーヒーの風味も相まってすいすい飲めてしまいますよ。

かわいいネーミングの「モーモーラテチューチュー」(900円)は、コーヒー焼酎を使ったアルコールドリンクです。牛乳を使わずにカフェラテのような味を引き出すことができないかと試行錯誤の末に生まれました。口の中に広がるほんのりとした甘みとコクは、グラスをゆっくりと傾けてのんびりといただきたくなります。
食事の〆や家に帰る前にフラッと立ち寄ることができる、おしゃれな屋台です。
珈琲と蒸溜酒 megane coffee & spirits
- 出店場所
- 福岡県福岡市中央区天神4−2−1 日本銀行福岡支店前
- 営業時間
- 19:30頃~24:00頃
- 定休日
- 不定休(雨天休業)
- アクセス
- 福岡市営地下鉄「天神」駅・西鉄電車「福岡(天神)」駅より徒歩約10分
- 公式サイト
- 珈琲と蒸溜酒 megane coffee & spirits
天神へのアクセス
福岡空港から天神までは福岡市営地下鉄で約12分、車を利用するなら約16分の距離にあります。天神、博多、中洲ともに空港から12分以内で移動できるアクセスの良さも魅力です。

年々進化する福岡の屋台グルメ。長浜ラーメンや焼鳥などの印象が強いですが、近年では新規参入の屋台が増え、屋台業界にも新しい風が吹いています。
ジャンル不問の幅広い料理やドリンク、デザイン性の高い空間設計など、どこも店主のこだわりが光る屋台ばかり。気兼ねなくいろんな屋台をのぞいて、とっておきの一軒を探してみるのはいかがでしょうか。
取材・文/原口可奈子 撮影/井上由紀子